経営者はなぜリスクを恐れ、リスクに溺れるのか? 『正しく恐れる』ためのリスクマネジメント

経営者を悩ませる「見えないリスク」

企業経営者である皆様は、常に様々な「リスク」と向き合っています。

  • 「この設備投資は本当に成功するのか?」
  • 「新しい法改正で対応コストが増えないか?」
  • 「主要な取引先が倒産したらどうなる?」
  • 「優秀な社員が辞めてしまったら?」

こうした不安は尽きません。

リスクという言葉を聞くと、「危険」や「回避すべきもの」といったネガティブなイメージを抱きがちです。しかし、経営におけるリスクとは、本当にそれだけでしょうか?

本記事では、経営者として知っておくべき「ビジネスリスクの正しい定義」と、それが企業の安定的な成長にいかに重要か、そしてどのように付き合うべきかをお伝えします。 そして、経営者がビジネスリスクを過度に恐れず、または取りすぎることがないようにし、ビジネスの安定的な成長を追求するためのヒントを、リスクコンサルタントの立場からご提示します。

リスクマネジメントで経営は安定する

ビジネスリスクの正しい定義:危険と機会は表裏一体

まず、経営者が抱く「リスク」のイメージをアップデートしましょう。

一般的に「リスク=危険(損失の可能性)な事象」と捉えられがちですが、現代の経営におけるビジネスリスクの正しい定義は、以下のとおりです。

ビジネスリスクとは、「良い結果(機会)と悪い結果(危険)の両方が、ビジネスにどのような影響を与えるか定まっていないもの」のこと。

すなわち、リスクは「危険(ダウンサイド)」だけではなく、「機会(アップサイド)」をもたらす可能性と、それがビジネス目的に及ぼす影響の不確実性を秘めるものです。

  • 危険(ネガティブ・リスク): 市場の縮小、競合の参入、事故、情報漏洩など、損失をもたらす可能性
  • 機会(ポジティブ・リスク): 新規事業の成功、市場の急拡大、技術革新による生産性向上など、利益をもたらす可能性

新しい市場への参入は、失敗(危険)の可能性と、大成功(機会)の可能性を同時に含んでいます。リスクをゼロにしようと行動を止めれば、危険は回避できても、同時に成長の機会も失うことになります。

経営者が「リスクを恐れ」「リスクに溺れる」メカニズム

経営者がリスクに対して極端な行動を取りがちなのは、以下の心理的メカニズムが働くからです。

行動の傾向心理的要因経営への影響
過度に恐れる
(行動が止まる)
損失回避の心理(プロスペクト理論)により、小さな損失でも過大評価し、危険な側面ばかりに目が行く競合他社に出遅れ、成長の機会を逃し、ジリ貧に陥る
リスクに溺れる
(過度な挑戦)
これまでの損失を取り戻そうと、一発逆転を狙った無謀な挑戦に走る。または、成功体験に囚われ、リスクの認識が甘くなる。根拠のないギャンブル的な経営になり、一度の失敗で会社が立ち行かなくなる

経営者は、この両極端に陥ることを避ける必要があります。重要なのは、「許容できるリスクの範囲(リスクキャパシティ)」を把握し、その範囲内で計画的にリスクを取ることです。

ビジネスリスクマネジメントの意義:持続的成長のための羅針盤

過度に恐れず、かつ過度に溺れないための羅針盤となるのが、ビジネスリスクマネジメント(BRM)です。

BRMの目的は、リスクをゼロにすることではありません

BRMの真の意義

  1. 脅威の回避(守り): 致命的な損失(倒産など)につながる「危険」を特定し、回避・低減する。→ 経営の安定化
  2. 機会の活用(攻め): 成長につながる「機会」を特定し、積極的に受け入れる(テイクする)。→ 経営の成長
  3. 不確実性のコントロール: 企業目標の達成を阻害する要因を事前に特定し、リソース(ヒト・モノ・カネ・情報)を効果的に配分する。

リスクマネジメントは、危機管理(トラブル対応)ではなく、「持続的な企業価値向上」のための攻めの経営戦略そのものなのです。

どのような企業であっても、限られたリソースの中で「どのリスクを取るべきか」「どのリスクを回避すべきか」を判断するために、BRMを導入すべきなのです。

そして、BRMを機能させるには、現場の最前線でリスクに直面する社員が、リスクを正直に報告し、議論できる「リスク文化」を醸成することが不可欠です。経営者は、この文化をトップダウンで構築しなければなりません。

リスクを「管理」し、安定的な成長を目指そう

企業経営者として、リスクとの付き合い方を再定義しましょう。

  1. リスクは「危険」だけでなく「機会」も含む目標達成の不確実性(結果が定まっていないもの)であると認識する。
  2. 自社の「リスクキャパシティ(許容できるリスクの範囲)」を明確にする。
  3. リスクマネジメントを「守り」だけでなく「攻め」の視点で捉える。

石橋を叩いて渡らない」経営は成長を停滞させ、「石橋の存在を見ない」経営は一瞬で会社を危険に晒します。

私たちが目指すべきは、「石橋の強度を正確に測り、石橋の先の利益との関係から、渡るべきか、迂回すべきか、もっと頑丈な橋をかけるか、あるいは渡ることをあきらめるべきかを判断する」経営です。

ビジネスリスクを正しく管理することで、あなたは市場の不確実性に振り回されることなく、持続的かつ安定的な成長の道を切り拓くことができるでしょう。今日からリスクマネジメントを経営の武器として活用し、一歩踏み出した挑戦を始めていきましょう。

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